先週の土曜日、JST社会技術研究開発センター主催の
に参加してきた。
科学技術がどのように社会に影響をあたえるのか?
「なにが将来的に生じるかわからない」
「なにがわかっていないかわからない」
こんな不確実な要素に満ちた今日の社会的課題に科学技術がどう対処できるのか?
科学的技術論理やELSI※(エルシーと発音するらしい)というキーワードで、生命科学技術、基礎研究、司法、様々な分野の識者が話題提供とともにディスカッションを展開した。
<追記>
社会技術研究開発センターのHPに当日の内容が掲載された。
・シンポジウム概要報告
・「社会」のなかの科学技術:不確実性・社会的責任・ELSI
※ELSI:Ethical, Legal and Social Issues「科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題」
特に興味深かったのが、リブラ法律事務所中村多美子弁護士の話題。
「不確実な科学的状況における司法判断の問題点」
結論から逃れない司法の場において、必ずしも100%ではない科学的証拠をもってどのように司法判断を下すのか。その困難さと問題について解説していた。弁護士は勝つために戦っているものであり、協力する科学技術者は必ずしも不利なデータを提出する必要はない。いきおい裁判官は被告・原告双方から提出される資料に対して、「どちらの科学的根拠が正しいか」ではなく、「どちらの科学者が信用できそうか」で判断してしまうとのことである。
(尚、中村弁護士はサイエンスカフェの形式を利用して科学的証拠が絡む模擬裁判を実施している。→「科学的証拠って何?~模擬裁判を通じて、法廷における科学のありかたを考える」当日の様子がレポートされているので、どのようなものか是非一読されたい。)
このほかにも、「薬害エイズ事件」や「原発もんじゅ」のような複雑な問題から、我々エンジニアの身近なところでは「Winny」、作った人が悪いのか、使った人が悪いのか、1か0かでは判断できない事例についてもいろいろ言及があった。
結局いまのところは
「科学技術は絶対ではないから、関係者でコンセンサス取りながら慎重に進める」
しかない。
その関係者をつなぐ手段の一つとしてサイエンスコミュニケーションがいま求められている。
さらに環境問題のような複雑な事象が絡むものに対しては
「事前警戒原則」にのっとり、
「不確さが残っていても対応できる」
「同時進行して科学的究明を続ける」
「新知見が出てきたときの責任の分担をきめておく」
社会システムを構築することが肝要なようだ。
こうした答えのない状況下では、エンジニアも単に最先端の技術を追い求めるだけでなく、自分が携わる技術がどのように社会に影響を及ぼすのか、想像力を働かせていく必要があるだろう。
会場のポスターセッション横で「科学技術と社会の相互作用」を考える上で役に立ちそうな書籍が紹介されていた。
その中から技術者が比較的読みやすいのではないかと、10冊(★マーク)を勝手に選定。(残りも備忘録代わりに載せておく)
普段は技術書中心のエンジニアも、GW中に一冊目を通してはいかがだろか。
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★『トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ (NTT出版ライブラリーレゾナント)』
著:小林 傳司
出版社:NTT出版株式会社
★『科学技術社会論の技法』
編:藤垣裕子
出版社:東京大学出版会
★『科学の社会化シンドローム (岩波科学ライブラリー)』
著:石黒武彦
出版社:岩波書店
★『安全と安心の科学 (集英社新書)』
著:村上陽一郎
出版社:集英社
★『日本近代技術の形成―“伝統”と“近代”のダイナミクス (朝日選書)』
著:中岡哲郎
出版社:朝日新聞社
★『科学者をめざす君たちへ―科学者の責任ある行動とは』
編:全米科学アカデミー 訳:池内了
出版社:(株)化学同人
★『未来の私たち―21世紀の科学技術が人の思考と感覚に及ぼす影響』
著:Susan Greenfield 訳:伊藤泰男
出版社:NPO科学技術社会研究所
★『責任という原理―科学技術文明のための倫理学の試み』
著:ハンス・ヨナス 監訳:加藤尚武
出版社:東信堂
★『より高度の知識経済化で一層の発展をめざす日本―諸外国への教訓』
著:柴田勉:編:竹内弘高
出版社:一灯社
★『科学技術と知の精神文化―新しい科学技術文明の構築に向けて』
編:(独)科学技術復興機構社会技術研究開発センター
出版社:丸善プラネット株式会社
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あとは参考までに。
『科学の社会史』
著:広重徹
出版社:中央公論社
『The No-nonsense Guide to Science (No Nonsense Guides)』
著:Jerome Ravetz
出版社:NewInternationalist
『Knowledge Management Foundations (KMCI Press)』
著:Steve Fuller
出版社:Butterworth-Heinemann
『アメリカの政治と経済』
著:マイケル・ガフ 監訳:菅原努
出版社:昭和堂
『Science And Citizens: Globalization And The Challenge Of Engagement (Claiming Citizenship)』
著:Melissa Leach,Lan Scoones & Brian Wynnel[eds.]
出版社:Zed Books
『エコロジーとポストモダンの終焉 (ポストモダン・ブックス)』
著:ジョージ・マイアソン 訳:野田三貴
出版社:岩波書店
『戦争の科学―古代投石器からハイテク・軍事革命にいたる兵器と戦争の歴史』
著:アーネスト・ヴォルクマン 訳:茂木健
出版社:主婦の友社
『マネジメント – 基本と原則 [エッセンシャル版]』
著:P.F.ドラッカー 編訳者:上田 惇生
出版社:ダイアモンド社
『医学生が学んだ生命の不思議 遺伝子の宿題』
著:駒沢伸泰 監修:仲野徹・森本兼曩
出版社:PHP研究所
『まず石を投げよ』
著:久坂部羊著
出版社:朝日新聞出版
『生態系サービスと人類の将来―国連ミレニアムエコシステム評価』
著:Millennium Ecosystem Assessment
責任翻訳:横浜国立大学21世紀COE翻訳委員会
出版社:オーム社
『低炭素社会のビジョンと実現シナリオ『地球環境』Vol.12.No2』
著:西岡秀三等
出版社:(社)国際環境研究協会
『植物力 人類を救うバイオテクノロジー』
著:新名惇彦
出版社:新潮選書
『サバルタンは語ることができるか (みすずライブラリー)』
著:G・C・スピヴァク 訳:上村男
出版社:みすず書房
『近代医学のあけぼの―外科医の世紀』
著:ユルゲン・トールヴァルド 訳:小川道雄
出版社:へるす出版
『世界の心臓を救った町―フラミンガム研究の55年 (ライフサイエンス選書)』
著:嶋康晃
出版社:ライフサイエンス出版株式会社
『日本低炭素社会のシナリオ―二酸化炭素70%削減の道筋』
編:西岡秀三
出版社:日刊工業新聞
『水産学シリーズ157 森川海のつながりと河口・沿岸域の生物生産 (水産学シリーズ)』
著:山下洋・田中克
出版社:恒星社厚生閣
『科学者の将来 (双書科学/技術のゆくえ)』
著:佐藤文隆
出版社:岩波書店
『知っておきたいNPOのこと』
編集・発行:日本NPOセンター
『健康帝国ナチス』
著:ロバート・N・プロクター 訳:宮崎尊平
出版社:草思社